アボカドの葉が風に揺れて。
今から2年前。
この春、卒業していった「猪苗代学」2期生が2年生だったときの話。
「2」が多いですね。
何か良いことがありそうです。
話を戻します。
「猪苗代学」は毎週金曜日の5・6時間目。
全学年がいっせいに別々のフィールドに飛び出していきます。
中ノ沢活性化班の2名は、このとき「中ノ沢源泉」によく足を運んでいました。
猪苗代のいわゆる市街地から20~30分ほど北上した地域にある中ノ沢地区。
中ノ沢温泉街からさらに奥へと進み、山道を抜けたその先に「源泉」はあります。
「『地域を知る』『地域から学ぶ』って、どんな風に取り組ませたら良いのだろう?」と、試行錯誤の渦中にあった私を横目に、
「先生、今週も中ノ沢行ってきまーす」と明るく学校を飛び出していく生徒たち。
当時、彼らの「機動力」に何度も救われたことをなんとなく思い返します。
「源泉までの山道に落ちている大量の『塩ビ管』をそのままにしておけないです。とにかくすごい数なんですよー」
「源泉から採集した『湯の花』を活用して、害獣の忌避剤を作りたいと思います。農業班と協力するのは有りですよね」
「福島大学で『獣害対策』について取り組んでいる学生さんがいるらしいんで、今度その集まりに参加してもよいですか?」
フィールドワークから戻るたびに、新たな課題を回収し、次につながる「何か」をつかもうとする生徒たち。
「もう少しよく考えてから判断してみても良いんじゃない?」なんて諭したこともあったし、外部の方と生徒とのあいだで知らないうちに話が進んでいて、あたふたと慌てたりすることもありました。
彼らの取り組みは、生徒自身の「関心」が傾く方向へと学びを進める「猪苗代学」の原則そのものであり、この時期の「地域探究」を大きく引っ張ってくれる活動の一つだったように思います。
「中ノ沢源泉の『地熱』を利用して野菜や植物を栽培してみようと思うんです」
ある日、そう声を掛けてきたのは、やはり中ノ沢班の生徒たち。
彼らのことを丁寧にサポートしてくれていた小西食堂(中ノ沢)の西村さんと情報共有を常日頃からおこなっていたこともあり、実はそれらが、「源泉付近の水質や地質の特徴」「豪雪地帯であるという自然環境」や「定期的な管理の側面」、さまざまな条件をかんがみても困難なアイディアであることは想像することができました。
少しの逡巡をはさんだでしょうか。
迷いながら、それでも「やらせてみる」という判断を後押ししてくれたのは、
西村さんをはじめとする「地域」の方々が、生徒に「歩幅」を合わせながらいっしょに歩んでくれている様子を、いつも一番近いところで見ていたから。
そして何よりも、『猪苗代学』が「まずはやらせてみよう」を入り口とした活動であると、改めて自分の中で整理することができたからでした。
彼らの「思いつき」が結果としてうまくいかなくても、その「失敗」から得られる「気づき」は、お釣りがくるくらいたくさんあると、そう思えました。
前進したり停滞したりを繰り返しながら、日々「探究」を続ける生徒の姿を思い浮かべながら、私は自宅の庭に植えていた小さなアボカドの幼木を彼らに譲ってあげることにしました。
「譲る」なんていうと、たいそうな話に聞こえますが、いつだったかスーパーで買ったアボカドを食べたあとに、その種を興味本位で庭に植えてみたらなんとなく育ったという、そんなアボカドの木でした。
もちろん生徒たちはとても喜び、それらをすぐに鉢に植え直し「中ノ沢地域の雪が落ち着いた春にでも、現地に埋めにいこう」と、そのアボカドたちはしばらく学校で管理することに。
それからは生徒が世話をしたり、冬を越すためのアイディアをいろいろな大人からもらったり。
そんなこんなをしているうちに、季節もいくつか巡りました。
3年生になった生徒たち。
「進路活動」に追われ、探究活動的にもただただ春を待つばかりには行かない状況の中、「別の」探究テーマに目が向くこともあったのかもしれません。
「アボカド」はたまに私に声をかけられながら、職員室のベランダの片隅で静かに時を刻むだけの存在になっていきました。
そして現在。
「スーパー生まれ、職員室のベランダ育ち」のアボカドは、猪苗代の厳しい冬を二度も乗り越え、彼らが卒業していった今でも青々としたやさしい緑色の葉を風に揺らしています。
職員室で仕事をしながら、ふいに窓の外を見ると「アボカドの葉」がいつもこちらにむかって手を振ってくれます。
2年前のこの一つのアイディアは、ここまで書いたとおり残念ながらなんの「実」も結ぶことはありませんでした。
探究活動の成果としては、企画倒れの「失敗」にカテゴライズされてしまうでしょう。
ですが、「実」はならなくとも大きな収穫はあったと、葉が風に揺れるのを眺めながら考えます。
それは、「生徒が『なにかをやりたい』と関心をもったときには、可能な限り心を傾けてあげよう」というマインドを大人たちが手に入れられたこと。
方法や手段は、もちろん生徒たちに考えさせなくてはならないとは思います。
それでも、生徒が「何かをやりたい」と思ったときに、全力でそれを認めてあげることこそ大切にしなくてはならない。
この先、彼ら自身が何かを生み出そうとするときの「最初の一歩」が、踏み出しやすいものになるのであれば、本望だと心から思えました。
これは私自身にとっても、大きなおおきな収穫でした。
「そうだね、まずはやってみようか。」
それは、無責任な言葉でもなければ放任でもありません。
「実」を結んでも、失敗しても、すべては前進であると、揺れる葉はそう教えてくれます。
※中ノ沢班の当時の活動については、こちらの記事をご覧ください。
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