見出し画像

とある普通の金曜日の話。


12月6日。
この日は、猪苗代町内の平地にまでしっかりと雪が降りてきて、
否が応でも「冬」と向き合う覚悟をさせられる。
そんな師走の金曜日でした。



「せっかくおいでいただくなら、『雪の猪苗代』を」

なんてことを『会津磐梯山』が考えたかどうかは分かりませんが、みぞれまじりの猪苗代へ遠方より足を運んでくださったお客さまが数名。

去る11月9日。
東京で開催された島根県海士町主催の『超!海士町祭り』に参加した際、ご挨拶させていただきました「学習評価研究所」の松浦さま。


そして、「高校生の進路選択に関する研究」を目的に来県されている神戸大学大学院 井上さま。さらに、デューク大学より石幡さまが来校くださいました。

お客さまがいらっしゃっての金曜日の午後の時間。
どんな生徒たちの活動が見られるでしょうか。


「話す」ではなく「伝える」ことに比重を置く。

と、話が少しだけさかのぼります。

9月終わりに実施された1学年「観光フィールドワーク」。

町内外20以上の企業・施設さまの協力の中、猪苗代町と周辺地域を6つのエリアに区分けして実施されました。

本当であれば、「鉄は熱いうちに……。」といきたいところではありましたが、この秋シーズンは『学びの収穫祭』をはじめとした探究企画がめじろ押し。

そんなわけもあって1学年による「観光フィールドワーク発表会」は、季節が一つ進んだこの日での実施となりました。

「話すこと」よりも、思いを「伝えること」。
春よりも、原稿から目が離れる回数が増えました。


そうそう。
こういった発表会を実施する際、
「先生、発表の内容を事前に見てもらえませんか?」なんてお願いをされることがよくあります。

そんなとき、生徒たちが調べてきた内容について、
「あーしなさい、こうしなさい」「あれはダメ、これも駄目」などと言ったりすることは、まずありません。

緊張してる? ほら、笑顔、笑顔、えがお。


あえてアドバイスすることがあるとすれば、

現地に足を運んだからこそ感じられた思い」が、しっかりと発表内容に込められているか。
もし込められているならば、しっかりと「それを聞いている人たちにも伝えてみようか。

渡してあげる言葉といったらそんなものです。

思いのほか緩めのボールを返された生徒たちは、「より伝わりやすくするためには?」と試行錯誤を始めます。

「発表」の場で習得すべきこと、意識すべきことはきっと色々あるのでしょうが、ひとまずはそんなことで充分だろうと大人たちは考えています。

それらが、客観的に自分たちを、自分自身をとらえる機会になるのであれば、目的の大きな部分は果たせたような気がします。


大人が心配しなくても……。


「今週の金曜日は、どこどこから誰々さんがやってくる」
「生徒たちは、うまく対応できるだろうか??」
「生徒ではなく、こちらが質問されたらどうしよう」

なんて心配をしているのは、大人たちだけかもしれません。

授業を見学しながら、活動の様子をながめます。
どの部屋をのぞいてみても、慌てることなく普段通りの活動をする生徒たち。

なにがきっかけとなって、その探究と向き合うようになったのか。
お客さまに対して、丁寧に言葉を重ねます。


会津伝統野菜「小菊かぼちゃ」
ペーストにして「天ぷらまんじゅう」と組み合わせる計画。
地域史班。土器焼きに続き「縄文クッキー」を企画中。


「取り組もうとしているテーマ」に対して、生徒自身が主体的に向き合えているかどうか。

そこのところの差と「活動の深まり」とには、やはり因果関係がありそうです。

いわゆる主体的に活動できているグループ(個人)を見ていると、
「今回については、できないことはできない」
「でも、これはやってみたいからやります」
「前から『やる』って決めていたので」
なんて具合に、意外とYES・NOがはっきりしています。

その取り組みをそのまま継続していたら、「商品開発」までいけるかも。
なんとなく……いやきっと何かしらの形になりそう。
「その先」にある景色が、大人たちにはぼんやりと見えている。

でも、そんな大人の算段は生徒たちには通用しません。

無理に風呂敷を広げるわけでもなく、やれることを一つずつ、愚直にやっているといった印象の生徒たち。

そう。
「やらされている」のではなく、自分たちがやっている」。

そんな、背伸びをしすぎない自然な活動の積み重ねによって、生徒から発せられる言葉にも「責任に近いものが生まれてくるのでしょう。

自分の考えを「言語化」し、相手に伝えます。


来校くださった皆さまにはじっくり、ゆったりと授業を見学いただきました。

場所を次から次へと移動します。
2年生の猪苗代湖水質改善班の活動場所にやってきたようです。

猪苗代湖に繁殖する菱を活用した「菱キャンドル」


他者から問われることの意義。


一生懸命に自分たちの活動について説明をはじめる生徒。

私はというと、それらの言葉に耳を傾けている大人たちの様子をなんとなくうかがいます。

大人の皆さま、
どうやら、自分たちの中に湧き起こる「知りたい」「たずねたい」欲求を心の中にぎゅぎゅぎゅっと凝縮させている様子。

生徒からの説明がひとしきり終わると、いよいよ攻守交代です。

「気泡が溜まってしまった原因って他には考えられないかな?」
「『素材』のせいで偶然そうなったのか、温度を変えてやってみたら面白そうだけど」
「このケース(容器)はどうして使ってみたの? 他は試してみた?」

大人の「探究心」から発露された「生徒の想定を超えた投げかけ」が、子どもたちへと降り注ぎます。

こんな状態を「固まる」というのでしょう。

こういったときの『大人の一撃』は、純度100%の透明さを持っており、それでいて目の前の事象のど真ん中にズシンと突きささるものです。

懸命に頭をフル回転させながら受け答えをしようとするその様子に、思わずにんまりとしてまいます。
「にんまり」は良くないですよね……。

少なくとも、こういった自身の思考を整理し言語化する時間、もしくは「言語化」しようと思考を巡らせる時間こそ、この世代の子どもたちにとって、もっとも大切にしなければならないプロセスなのだろうと思います。

「それ」を知らないであろう相手に、いかにわかりやすく自分の言葉で「それ」を伝えることができるか。

このときに感じた苦しさ悔しさが、次へと進み「学び」を深めるための原動力になるはずです。

やりとりや受け答えがうまくいかなくとも、そこには間違いなく時間を注ぐべき意義があるように感じました。


気づけなかった「視点」をどう受け止めるか。


なんでそれをやってみようと思ったの?
なぜそのような判断にいたったの?
他の方法を試す必要は、本当になかったのかな?
次にどんな展開を考えていますか?

投げかけられる一つひとつの「問い」が、これまで「当たり前」に進めていた作業の意味について、改めて考えさせられる機会となることでしょう。

先輩から引き継ぎ、改良を重ねた「ザリ塩」。
「道の駅ばんだい」さまとコラボしたザリ塩ソフトを開発し、
『学びの収穫祭』ではザリ塩チップスが大盛況。
そして、この日は「ザリクリームコロッケ」。


他者から与えられる「新たな視点」は、ときに耳になじみにくく、チクッとした痛みもともないます。

でも、考え方の角度を変えれば、「探究」をさらに深めるための最高のスイッチにもなるはずです。

授業見学に戻りましょう。

いくつかの活動に目をうつしてみると、
ウチダザリガニの殻をじっくりと炒める生徒の姿。

『学びの収穫祭』でも提供した「ザリ油」を作ります。
それは、島根県立隠岐高校の皆さんに届けるため。


島根県で、同じ「外来種の活用」に取り組む隠岐高校との交流も2年目に入ります。

今年度は、「『ザリ塩』と『ザリ油』を使ってみたい!」という嬉しい連絡をもらっていて、生徒たちは一生懸命に増産作業を進めていました。

喜んでもらえたら嬉しいですね。


続いて見えてきた活動はーー。

こちらも、猪苗代町の北部に位置する秋元湖が舞台の探究活動。
秋元湖の水質改善」をテーマに掲げていた3年生男子。

彼らが注目したのは、同じ特定外来生物である「ブラックバス」。

こちらは、秋元湖にせい息しているブラックバス。
「ウチダザリガニ以外にも目を向けましょう」だそうです。


ウチダザリガニに関する取り組みが活発に進む傍らで、なかなか動き出せずにいた活動でもありました。

揚げたての「ブラックバスのフライ」。
お客さまの感想から、次へと進むための「何か」をとらえることはできたでしょうか。

個人的には「黄金色のシュワシュワ」を思わず注文したくなるような、そんな美味しさでした。
いや、本当にうまかった。
ごちそうさま。

それでも、仕上げに「ザリ塩」をかけるのね。



生徒たちだけで進んでいく時間。


ご覧いただいたように、毎週金曜日の午後の時間は、学校内外に関わらず、すべての場所が教室になります。

地域の先生方以外にも、県内外から足を運んでくださるお客さまも増えてきました。

随分バタバタした落ち着かない活動だなあ、なんて感じられたかもしれません。

でも、月の何週目かにそういった時間を設定しているわけではなく、これは毎週行われている普通の出来事」なのです。

これだけ多くの大人たちに関わっていただいていたら、知らず知らずに「社会性」だって身につくはずです。


残念ながら、お客様たちをすべての教室に案内することができないまま、6時間目の終わりを告げるチャイムが鳴ろうとしています。

残り時間を伝えるため、何げなく3年生教室をのぞくと、何やら作業に没頭している「アートルーム活用探究」の生徒たち。
校舎内の「空きスペースの活用」をテーマとした活動を進めています。

メッセージを添えながら、丁寧に作業を進めている様子。


ちょっと、ちょっと。今度は何をはじめるの?
と恐るおそる聞いてみると――。

「『学びの収穫祭』のお礼に折り紙をおってましたー」
「おじいちゃん、おばあちゃんたちに来週持っていきまーす」
と生徒たち。

『学びの収穫祭』では、旧部室のリノベーションを企画。

そう言えばーー
ケアハウスの皆さまに、旧部室に飾る装飾品作成を手伝ってもらっていたんだったよね。

そうか。
確かに、お願いするときばかり丁寧に頭を下げて、あとはOKなわけではないでしょう。

自分たちで、お礼の品を考えて準備してーー。
お邪魔しても良い日のアポ取りをする。

その際、近所のケアセンターの皆さまにも協力いただきました。


やっていることが、「大人」のすることと変わりがありません。
驚きとうれしさとが入り交じる不思議な感覚です。


「非認知能力」が身につき、育つ環境をーー。

数値での評価とは異なる「非認知能力の育成」も『猪苗代学』の大きな柱の一つ。

あと数ヶ月で卒業を控える3年生たちの様子を見ながら、
『猪苗代学』を通して学び得たことがあるのだとしたら、きっとこういうことなのだろうと。

そんな気持ちで生徒の様子を眺めていると、ちょうど6時間目が終わるチャイムが鳴りました。

今回紹介したのは、とある金曜日の生徒たちの活動の様子でした。
いかがだったでしょうか。

もし興味を持っていただけましたら、いつでも学校まで気軽にお問い合わせください。
特別なお持てなしはできませんが、きっと生徒たちが黙々と、そして笑顔で活動する様子をご覧いただけるはずです。

ご連絡、お待ちしております。

自分たちが「学び」たい方向へと歩みを進める。
苦しい場面やしんどい時期もあるだろうけれど、
きっと楽しいことのほうが多いはずです。