こういうのはやっぱり苦手だな。
「こういうのはやっぱり苦手だな・・・・・・。
でも、それも今の自分だし、そこは変えようがないから、少しずつでもがんばるしかないなって思いました。
あ、でも 一度話し出してみたらいつの間にか50秒くらい経っていて。
大切なのは『一歩踏み出せるかどうか』なんだって。そうも思えました。」
春。
年度始め。
校庭に咲く桜の向こうには会津磐梯山。
冒頭に書かれているのは、新入生を対象としたコミュニケーションワークショップ「他己紹介」を受けての「ある生徒」の感想です。
1年生の地域探究のテーマは「『知る』学び」。
猪苗代町やその周辺地域を「教科書」として、そして地域の皆さまを「先生」として学びを進めます。
「防災」「農業」「観光」について「知る」ことが、2、3年生になったときの活動へと繋がっていく。
そんな考えから、1年生の探究の時間の多くを地域に目を向けながらの「インプットの時間」として設定しています。
「防災」「農業」「観光」以外に『知る』べきこと
目を向けるべきポイントは、実はその「3分野」以外にもあります。
「なんだそんなことかよ」と怒られそうですが、
それは「自分」自身です。
生徒たちは、三年間の探究活動を通して数え切れないくらいのチャレンジと、それ以上の失敗を重ねていきます。
ただ、失敗するたびに心を痛め打ちひしがれていては、きっと先に進むこと自体が苦しいものとなってしまうでしょう。
「失敗」すること、それ自体は問題ではない。
もちろん、同じ失敗を何度もなんども繰り返すのは避けたいことです。
ただ、何よりも大切にしたいことは、「失敗」としっかり向き合ったうえで、「次」に進むこと。
「失敗してやりっぱなし」なんてことがないように。
自分のどんなスタンスが「失敗」を招き入れることになったのか。
そこはじっくり考えたい。
社会人として世の中に足を踏み入れる少しだけ手前の時期。
そんな「高校生」の今だからこそ、とことん自分自身にベクトルを向ける必要があるのだろうと思うのです。
○失敗を伴う「挑戦」へと歩みを進めること。
○イレギュラーを「前向き」にとらえる強い心根を養うこと。
○そして何より、自分自身を「知る」こと。
●自分は何が得意で、何が苦手なのか。
●他の人にはできて自分にできないことはなんなのか。
●これだったら誰にも負けないと言える「何か」を自分は持っているのか。
一年次「『知る』学び」では、「地域」を知りながら「自分」自身とも向き合っていきます。
探究活動と「表現教育」
猪苗代高校の1年次において、たくさんの「表現教育」の時間を設定している理由が、実はその後の探究活動と密接に繋がっています。
猪苗代高校にて用意してある多くの「表現教育」の時間には、
「他者といかにつながるか」ではなく、
「正しく『自分』を見つめ、丁寧に『自身』を理解する」という本来のねらいがあります。
今回の記事は、令和6年度の入学生たちが、この春 実践してきた「コミュニケーション教育」の様子についてです。
新たな生活、新たな人間関係の構築のために「自分」と向き合う生徒たちのがんばりが、少しでも伝われば嬉しいです。
それではごゆっくりご覧ください。
※下のリンクは昨年度のコミュニケーションワークショップの様子についてです。お時間あるときにでも合わせてご覧ください。
大人だって、必要だと思ったらとりあえずやってみる
『猪苗代学』は、この春4年目を迎えましたが、
猪苗代高校が、「その学び」のプログラムに正式に「演劇コミュニケーション教育」を取り入れたのは3年前。
県の教育委員会の支援を受けて、夏休み以降に学年の枠組みを超えて実施されるNPO法人「PAVLIC」の皆さまによる演劇コミュニケーションワークショップがそれです。
年間全3回の日程で計画されます。
※昨年度、「PAVLIC」さんとのコミュニケーション教育についてはこちらの記事からどうぞ。
生徒にとっても、教員にとっても大変意義あるプログラム。
生徒の変化をはっきりと感じては、毎年度、開催のタイミングを今かいまかと待ち望んでいます。
が、
新入生たちの「人間関係の構築」は、年度始めの春先こそ肝要。
新生活に付随してくるいくつもの不安は、「演劇ワークショップ」の「秋」実施を待ってはくれません。
うーん。
どうする?
どうします?
うーん。
それならいっそのこと、自分たちでやってしまいましょうか。
と始まったのが、
毎年度、春に実施される「新入生コミュニケーションワークショップ」(教員実施ver)です。
前任校にて「演劇教育」にほんの少しだけ携わっていた探究担当教員が、
「良いものをたくさん持っている猪高生。あとは、それを外に表現する力があれば最高なんだよなあ」
なんて赴任時から絶えず感じていた「想い」と、
協働的な場面において必要とされる精神的負荷とをプログラムにたっぷりと練り込みました笑
意地がわるいですね。
そもそも、
「『これならできる』『これは無理』を生徒それぞれが、しっかり『認知すること』」が目的ですから、うまくいかなくたっていいんです。
ワークショップを進めながら、生徒が戸惑い、悔しがる表情を見ると、こちらはニコニコしてしまいます。
うん、やはり意地がわるい。
でもでも、いいぞ猪高生。
まずは「知る」。
大切なことは、自分を「知る」。
R6.4.12 新入生コミュニケーションワークショップ(教員実施ver.)
2校時目。
1時間目の講義「『猪苗代学』って何?」の時間を終えた生徒たちは、一斉に体育館に移動します。
体育の授業?
いえいえ。
今から始まるのは、「新入生コミュニケーションワークショップ」です。
1時間目の講義の中で、
「できないことを「悪い」なんて言うつもりはまったくないよ」
「自分にはそれが『できない』んだけど、ちょっとだけがんばれば『できるかも?』って感覚、わかるかな? 少しだけ無理をする感覚」
「『猪苗代学』では、3年間を通して「その感覚」ともしっかり向き合ってほしいんです」なんて話をやんわりと伝えられていた一年生たち。
令和6年度「新入生コミュニケーションワークショップ」
実施メニュー
○カウント30
○椅子取り鬼
○空間認知とポジションキープ
○息を合わせて一斉にジャンプ
うまくやれるかな?と少し心配したけど、なんだ、みんな笑顔でやれたじゃないですか。
「中学まで自分は消極的だったけど、勇気を出して意見を伝えることができました」
「思ったことは共有すべきだって気づきました」
「思ってるだけじゃダメですよね。良い意見ならみんなに言った方が良い」
うん、素晴らしい意見。
これなら大丈夫。
きっと大丈夫です。
そう言えば、
この日は1年生たちにとって、記念すべき『猪苗代学』初日でした。
生徒たちの言葉を聞きながら、出来すぎなスタートになったなあとしみじみしてしまいます。
はい。
みんな、よくがんばりました。
R6.4.19 表現教育「他己紹介」(教員実施ver.)
新入生対象の表現教育。
「猪苗代学」を通して、今後、たくさんの人や物、場所と向き合っていく生徒たち。
そこで大切になってくることってなんでしょうか?
それは「関心」を持つこと。
よく「自分ごと」として考えよう!なんて言葉を耳にします。
何が対象であれ、「自分には関係ない」なんて思ってばかりいたら、なかなか「自由に探究してみよう」という気は起こらないですよね。
「探究する」とは、自分を「知る」こと。
それらの大切さを知るべく、今日は「他己紹介」にチャレンジ。
ペアになった相手のことを、本人に代わってみんなに紹介します。
だから「自己紹介」ではなく、「他己紹介」。
自分のことをしっかり相手に伝えなきゃならないし、相手のことも丁寧に聞き出さなきゃならない。
そんな活動の中で、「相手に興味を持ってもらえるってこんなに嬉しいんだ」って感覚を手にできたら最高です。
誕生日、血液型、出身中学・・・・・・
それらも確かに大切な情報だけど、もっと他の人たちにも伝えてあげたい「相手の良さ」ってないのだろうか。
懸命に言葉を投げ、耳を傾け合う生徒たち。
ニコニコ笑顔もあれば、下を向いて恥ずかしそうな表情をしている生徒も。
中でも、ひときわ声が小さくて、誰よりも「自分」を伝えることに苦労していたある生徒。
終始うつむきかげんで、ペアの人と向かい合うことさえ容易ではない様子。
それでも、
全体に次の指示を与えながら、視線をふいに彼に戻すといつの間にか良い笑顔になっていました。
何かしら得られる「手ごたえ」があったのでしょう。
彼だけではありません。
みな、一様によい表情で言葉をかわします。
相手に「関心」を持とうとする姿勢のその先に、「探究心」のしっぽがはっきりと見えました。
「こういうのはやっぱり苦手だな・・・・・・。
でも、それも今の自分だし、そこは変えようがないから、少しずつでもがんばるしかないなって思いました。
大切なのは『一歩踏み出せるかどうか』なんだって。そうも思えました」
「探究する」とは、自分を「知る」こと。
生徒の取り組みを見ながら、こちらも勉強になりました。
とてもとても良い時間でした。